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東京高等裁判所 平成10年(ネ)1075号 判決 1998年9月28日

控訴人

右訴訟代理人弁護士

買原唯光

被控訴人

有限会社美術の曾田

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

大津晴也

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求める裁判

(控訴人)

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文同旨

第二  事案の概要

次のとおり訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決六頁八行目の「原告は、美術商として十数年の」を「本件売買契約の交渉及び締結に当たった原告代表者は、美術商として二七年間に及ぶ」に改める。

二  同七頁二行目から三行目にかけての「隠れた瑕疵があったともいえない。」を「贋作であったとしても、これを隠れた瑕疵ということはできないし、原告が善意であったということもできない。」に改める。

第三  当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人の本訴請求を正当として認容すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決七頁七行目の「原告本人」の次に「(原審及び当審)」を加える。

二  同八頁二行目から三行目にかけての「原告代表者は少なくとも一〇年位、被告は二〇年余、」を「被控訴人代表者は二七年位、控訴人も二〇年余、」に改め、四行目から五行目にかけての「本件記録中の原告の商業登記簿謄本、」を削り、六行目の「その真相」から七行目までを「本件売買契約締結の事実及び後に認定する契約締結に至る経緯に照らすと、右紛争が両者間のわだかまりとして本件契約当時まで尾を引いていたとは考えられない。」に改める。

三  同九頁一行目の「関心を示すと、」から八行目までを「関心を示した。被控訴人代表者は本件画幅の真贋について半信半疑であったが、控訴人は被控訴人代表者に対して「大観の画幅と同じ家から出たものであるからよいものである。」旨申し向けたことから、控訴人代表者は堂本印象の真作であると信じた(被控訴人代表者本人(原審及び当審)、控訴人本人(原審及び当審)、弁論の全趣旨)。」に改める。

四  同一〇頁八行目から九行目にかけての「却って、被告の右陳述のとおりであると推認される。」を「控訴人の右陳述によると、高々二〇〇万円かそれを多少超える程度であったと推認される。」に改める。

五  同一二頁二行目の「本件売買契約締結の際、」から七行目までを次のとおり改める。

「本件画幅が真作であれば二〇〇万円あるいはそれ以上の値が付くところ、贋作であれば二〇万円ないし三〇万円程度であるとする控訴人の陳述からもうかがわれるとおり、本件画幅のような美術品の売買にあってはその真贋が当事者の最大の関心事であるところ、被控訴人代表者が大観の画幅の買入をその真贋ではなく傷や汚れを理由に断念した後に、控訴人はあえて本件画幅が大観の画幅と同じ家から出たものであるからよい物である旨を説明し、さらに売値もそれが真作の場合の価格の範囲内とみられる二〇〇万円と申し出ていることと、両者がともに長年美術商を営んできた物であること、両者は一〇年も前から知り合いその間に美術品の取引関係があること、本件売買契約の代金は結局一五〇万円と合意されたこと等前記認定の事実を総合して判断すると、本件の具体的交渉の場においては、控訴人のした本件画幅が大観の画幅と同じ家から出た旨の説明は、本件画幅が堂本印象の真作であることを別な表現で表示したものであり、また、右の説明及び二〇〇万円の売値の申出は、少なくとも本件画幅が堂本印象の真作であることを黙示的に表示したものである。一方、被控訴人代表者は、これらの控訴人の言動を真作である旨を表示したものと認識し、かつ、その言動により真作であると信じたからこそ買受けの意思表示に及んだことは明らかというべきである。そうすると、本件売買契約においては、控訴人は本件画幅が真作であることを明示し又は少なくとも黙示的に表示して売却の意思表示をしたものであり、被控訴人代表者は本件画幅が真作である旨の表示を信じ、かつ、これを前提にして買受けの意思表示をしたのであるから、本件画幅が堂本印象の真作であることは、本件売買契約の要素となっていたことは明らかである(なお、控訴人は、真作である旨の表示は、保証書や鑑定書によって明示的になされなければならないと主張するが、独自の見解であって採用できない。)。」

第四  結論

よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 森脇勝 裁判官 橋本和夫)

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